第十九章:菩薺寺にて鬼が半月関を語る3

「どうかした?」と謝憐。

 三郎も座ったまま手のひらを見せた。「どうしました?」

 扶揺は眉をしかめていた。

「お前は何者だ?」

「私の友達だよ。君たち知り合いなの?」

 三郎は罪のない顔をした。「兄さん、お二人はどちら様?」

 彼が兄さんと呼ぶのを聞いて、南風は口元を引き締め、扶揺は眉を震わせた。謝憐は三郎に手を挙げて、「大丈夫、緊張しなくていいよ」と言った。だが南風は一喝した。「そいつと話さないで!」

「どうして。やっぱり君たち知り合い?」

「……」

「知り合いではありません」扶揺は冷ややかに言った。

 謝憐が「知り合いじゃないなら、君たちは何をしたいの…」と言い終わらないうちに、ふと両側で何かが光っているような気がして、振り返ると、二人とも右手に白い光を集めていた。彼は嫌な予感を覚えると慌てて言った。「やめてやめて、早まらないで!」

 その二つの塊からは白い光がびりびりと飛んでいてかなり危険に見えた。決して一般人の手から出てくるものではない。三郎は二度拍手すると、礼儀正しく二人を持ち上げた。「お見事、お見事」この2つの称賛には少しも誠意がない。謝憐がようやっと二人の腕を掴むと、南風は彼の方を向き怒りながら言った。

「どこで会ったんですか? 名前は? 家はどこに? 素性は分かってますか? なぜあなたと一緒にいるんですか?」

「偶然道で会ったんだ、彼は三郎と言って、彼について知ってることは多くないけど、行く場所がないって言ってたから連れてきたんだ。頼むから早まらないでくれ」

「あなたは……」南風は息を呑み、悪態をつきかけたのを強引に堪えると、問い質した。「あなたは何も知らずに入れてやったんですか?! もし良からぬことを考えている輩だったらどうするんですか!?」

 南風はどうして謝憐の父親であるかのように怒っているのだろう? 神官だろうが只人だろうが、年下にこのような口の聞き方をされると、たちまち不愉快になってしまうものだ。しかし、謝憐は様々な叱咤や皮肉に対してとっくに無感動になっていたし、この二人は結局のところ謝憐に好意的であることは分かっていたので、気にしなかった。すると三郎は、「兄さん、この二人は貴方の下僕(しもべ)かなにか?」と言った。

「下僕は違うよ。正確に言えば、助手かな」と、謝憐は朗らかに言った。

 三郎はにこにこしている。「そうなんだ?」

 彼は立ち上がり、無造作に物を掴むと扶揺へ放り投げた。「じゃあ、手伝ってくれますよね?」

 扶揺は何がやってきたのか見ずに掴み、手に収まったそれを見下ろすと、一瞬で黒い怒りに頂点に昇らせた。

 この少年はなんと彼に箒を投げ渡した!

 扶揺の顔つきは、その場で箒と少年と一緒に粉々にしてしまいそうだった。謝憐は急いで箒を取り上げると、「落ち着いて、落ち着いて、私はこれしか持ってないんだ」と言った。しかし、彼が言い終わらないうちに扶揺は手に持っていた白光を放った。厳しい声で「さっさと本性を現せ!」と叫ぶ。

 三郎は避ける素振りを見せず腕を組んだまま座っていたが、彼がわずかに身体を傾げると、そのまばゆい白光は卓子の片足に当たり、卓子は傾いて、杯やお椀が白く輝きながら地面に落ちていった。謝憐はつい額を押さえるとこれ以上はいけないと思い、手を振って若邪を出すと、南風と扶揺の腕を縛った。二人は藻掻いても藻掻いても抜け出せなかったので、南風は「何をするんですか!」と怒った。

 謝憐は一時休止の手つきをして言った。「外で話そう、外で話そうね」また手を振ると、若邪は彼ら二人を引っ張って飛んで行く。謝憐は振り返って、「すぐ帰ってくるからね」と三郎に言った。後手で扉を閉め、寺の前に来る。彼はまず若邪を収めて、門の前の看板を持つと、二人の前に置いて、「読み上げて、これが何か私に教えて」と言った。

 扶揺はその看板に向かって唱えた。「本寺危き房、善士に願う、寄付して修繕し、功徳を積む」彼は顔を上げた。「倒壊寸前の家で寄付を求めるのか? あなたが書いたんですか?? あなたは兎にも角にも飞升した神官でしょう、どうしてこんなものが書けるんですか? 尊厳はどこにやったんですか?」

 謝憐はうなずいた。「そうだよ、私が書きました。君たちが中で戦い続けたら、私は家の修繕じゃなくて家の建て直しを求めることになるね。もっと尊厳がなくなるよ」

 南風は菩薺寺を指さした。「あの小僧がおかしいと思わないんですか?」

「もちろん思うよ」

「危険だと分かった上であえて傍に置いているんですか?」

 謝憐は彼らが寄付をするつもりがないのを見て、看板を戻した。

「南風、君の言っていることは正しくない。世の中の人の気性と巡り合いはその数だけ違うし、おかしいと危険は同じじゃないよ。他人の目には私もおかしく見えるだろうけど、君たちは私を危険だと思うかい?」

「……」

 これは本当に反論できない。この人は明らかに世俗を超越した仙の風采を持つ美男子だが、あいにく一日中がらくたばかり集めていて、堂に入った奇妙さの持ち主だ!

「何か企んでいるかもしれないと思わないんですか?」と扶揺は言った。

「企んでまで欲しい何かが私にあると思う?」

 この言葉が出ると、南風と扶揺の二人は言葉が詰まってしまった。

 彼が言っていることは本当に筋が通っている。誰かが何かを企むときは、たいてい羨望や嫉妬、恨みがきっかけになる。しかし悲しいことに、よく考えてみると、今の謝憐に企みが生まれそうなものがあるとは思えない。強請れる金もなければ強奪できる宝もない。彼が毎日集めているがらくたでも狙うのか?

「それに、彼を試したことがないわけじゃない」

 謝憐がそう言うと、二人は顔をこわばらせた。「どうやって探ったのですか?」「結果は?」

「なんともなかった。ここまでやっても彼が只人でないのなら、可能性は一つしか残っていないね」

 絶!

「本当に絶かもしれませんよ」扶揺は冷笑した。

「君たちは絶境鬼王が私たちみたいな暇人だと思うの? 村に行って私と一緒にがらくたを集めてくれたんだよ」

「私たちは暇人じゃありません!」

「はいはいはい……」

 丘の斜面にある菩薺寺の外にいた三人には、少年が部屋の中を悠々と歩いている音だけが届いていて、何も心配することがないかのように聞こえた。南風は声を潜めて言った。「だめです。何らかの方法で、彼が絶かどうか試さなければ」
 謝憐は眉間を揉んだ。「なら、やってみなさい。でも、度が過ぎないように。本当に家出した良家のご子息なのかもしれないよ? 私とあの子は結構気が合うんだ、良くしてあげて。いじめないであげて」

 「いじめないであげて」という言葉を聞いて、南風は一言では言い尽くせない顔をして、扶揺の目玉は裏側までひっくり返ってしまいそうだった。念を押してから扉を開けると、三郎はちょうど頭を低くして、卓子の足を調べているようだった。謝憐は軽く咳をして、「大丈夫?」と言った。

 三郎は笑って、「大丈夫だよ。直したほうがいいのか見てただけ」

「さっきは誤解があったみたいだね、気にしないで」と謝憐は温かい声で言った。

「貴方がそう言うのに、俺が気にするわけないよ。彼らはもしかしたら俺に見覚えがあるのかもしれないし」

 扶揺は薄ら寒さを漂わせて言った。「ええ。知っている気がしたので、先ほどは見間違えたのかもしれません」

 三郎はにこにこと微笑んだ。「わあ、奇遇だな。俺もなんだかお二人を知っている気がします」

「……」

 二人は警戒をあらわにしていたが、それ以上過激な行動に出なかった。南風はうっとおしそうに言った。「場所をください。『縮地千里』の陣法を描きます」

 『縮地千里』は縮地術であり、その名の通り、千里山川を一歩に縮める。一回使うたびに大量の法力を消費する以外は、この上なく便利だ。謝憐は床の菰を仕舞って、「ここに描こう」と言った。

 先ほど入ったとき、扶揺は中の家具をよく見ていなかったが、こうして歪んだぼろ小屋の中に立ち、あたりを見回すと、全身が不自由であるかのような顔をして「こんなところに住んでいるんですか?」眉をひそめた。

 謝憐は彼に腰掛けを持って行ってやり、「私はいつもこんなところに住んでるよ」と言った。

 話を聞くと南風は固まって、しばらくするとまた陣を描きはじめた。扶揺は座らないまま微かに表情を固くしていて、それがどんな表情なのかは明確に言えなかった。ほとんど茫然としているような、でも少しだけ、他人の不幸を喜んでもいるかのような。

 しかし彼はすぐにその異様な表情を収めて、また「寝床は?」と訊いた。

 謝憐は菰を抱いて、「これだけど」と言った。

 南風は頭を上げてその菰を眺めると、また頭を下げた。扶揺はそばの三郎をちらりと見て、「彼と一緒に寝ているんですか?」と言った。

「何か問題でも?」

 しばらくしても二人は一言も発さなかった。問題ないらしい。謝憐は振り返って、「ねえ三郎、君の話が途中だったよね。あの半月妖道になにかあるの? 続きをお願いしてもいい?」

 三郎はちょうど彼らを見つめて、何か考えているような漆黒の目をしていたが、謝憐に訊かれると我に返って、かすかに笑った。「いいよ」

 少し間を開けてから彼は言った。「半月妖道は半月故国の国師のことなんだ。妖道双師の一人だね」

「妖道双師ってことは二人いるんだ。もう一人は?」

 三郎は訊かれれば必ず答えた。「半月国とは関係ないんだ。中原の妖道士で、芳心(ファンシン)国師と呼ばれている」

 謝憐はかすかに目を見開いたが、聞き続けた。

 もともと半月は限りない兵力を持ち、しかも性質が凶暴だった。また地政上の要所に位置していた。中原と西域の往来に重要な関所の一つを押さえ、両国は国境で常に衝突し、摩擦が絶えず、大小問わず戦争が勃発していた。彼らの国師は邪術に通じていて、半月兵はそれに信服し、必死に従った。

 しかし、二百年前、中原のある王朝がついに出兵し侵攻して、半月国を平定した。

 半月国は滅びたが国師や兵士たちの怨念は消えず、災いを残していた。半月国はもともとオアシスにあったが、国が滅んだ後は半月関となって、邪気に侵食されたかのように、オアシスも周囲の砂漠にのまれていった。夜には、背が高く、狼牙棒を手にした半月兵が砂漠をさまよって、あたりを警邏し狩りをしているのがよく見かけられると言う。もともとここには何万人以上の住民がいたが、次第に生きていけなくなり移住していった。それと同時に、「関を通過するたびに、人が居なくなる」という伝説が広まった。中原から来た人がここを通れば、みんな持ち物を半分残していく――すなわち人命を!

 扶揺は皮肉っぽく笑った。「公子、あなたは物知りなんですね」

 三郎は笑った。「とんでもない。お二人があまり物を知らないだけでしょう」

「……」

 謝憐は思わず吹き出して、この子供は本当に口が達者だと思った。また三郎のけだるそうな声を聞く。

「でも、こういうのは民間で伝えられた歴史や怪異古書からの一説にすぎない。そんな国師が本当にいるかどうか、誰が知っているだろう? 半月国が存在しているかどうかも怪しいんじゃないかな」



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妖道……妖術を使う道士

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Author:kirihata
中国語初心者です。原作の読み返しついでに自分なりに訳してます。
魔翻訳に毛が生えた程度なのでご了承ください。

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